「モードの方程式」 中野香織 日経新聞夕刊 2005/05/13
傑出した美女というわけではないのに、なぜか「女」度が高くて目が離せないという人がいる。観察すると、細部にぬかりがない。手足のツメ、まつげ、神の先端...とすみずみまで入念な手入れが行き届いている。
「神は細部に宿る」とはドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉だが、「女」を作る神もまた、とくに手入れしなくても困らない細部に宿るものなのかも。
主題としては室内の飾りとして doily などを使うのと同じように、新幹線や飛行機の座席の背もたれにかけられる小さな布(アンチ・マカッサル)の効果について語ったものだったのが、むしろ、最後のオチで「ドアノブに布をつけるのはやりすぎだろう」とやっているのがおもしろかった。
「アンチ・マカッサルを見ると、先に座っていた見知らぬ人の髪を想像して一瞬ぎくりとすることがあるように、ドアノブカバーを見ると、自分より前に触れた見知らぬ人の手をいやおうなく意識させられることがある。家具は汚れから守られるが、こちらの心は小さな責めにあう。」
人間(というか、人間に限らず一般に高等生物は)は、他者の臭い(というか、ようするに化学物質)をつけられることを嫌う。布に残っている前の利用者の化学物質が付着することに本能的な嫌悪感を感じるのだろう。
無味無臭であったはずのトイレットペーパーが誰かに三角に折り曲げられているのを見て感じる嫌悪感と同様だろう。
(ところで、もしもあれが機械で自動的に折り曲げられるものだったら、そんなにイヤじゃないですか?)
ドアノブの件に関しては、知人のテリトリー(たいてい家・棲)で見るものだと思うが。
むしろ、「知らない誰か」ではなく、「限定された誰か」であることに嫌悪感を感じるものだと思う。
知っている誰かの臭いをつけられる感覚が、本能的にはその誰かの所有・あるいは配下におかれることへの同意と解釈されるのだと思う。だから人は嫌悪感を感じる。
doily:
A small ornamental mat, usually of lace or linen.
A small table napkin.
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